法船寺のねずみたいじ
金沢を流れる犀川の中程に、新橋と御影大橋がかかっています。
二つの橋の間にある中央通町に、法船寺というお寺がありました。
むかし、むかし、今から200年も300年も前のお話。
法船寺の和尚さんが、いつものように、夕方のお勤めをしようと、お堂に入りました。
「今日は、いたずらねずみが、悪さをしてなければよいが。ややっ、今日もまた天井の板が、はずれとるわ。いたずらねずみには困ったもんじゃ。これではお経をあげることもできん。」
ある日のこと、近所のおじいさんが、一匹の子猫を抱いてやって来ました。
「あのぉ、ねずみで困っとると聞いたもんで、うちの子猫を一匹持ってきましたがや。これの親は、これまでねずみを、たぁんと捕ったさけ、これもたぁんと捕りますやろう。」
子猫はすぐ大きくなりました。
でも、ちっともねずみを捕ろうとしません。
寝てばかりいます。
その晩、和尚さんが寝ていると、夢の中に猫が現れて言いました。
「和尚さん、あのねずみは、ただのねずみではないがや。とってもわしだけでは退治出来んさけ、能登の鹿島にいる強い猫に助けてくれるよう、頼みに行って来ますわい。」
二、三日経ったある日のこと、お寺の猫が、見慣れない猫を一匹連れて現れました。
「おぉあの夢はやっぱり本当やったんじゃ」
和尚さんは大喜び。
「しっかり頼むぞ。」
夜になりました。二匹の猫は、本堂の屋根から天井裏に入って行きました。
「ニャー、ニャー・・・」
和尚さんはお経を唱えて、二匹の猫を応援しました。
騒ぎを聞いて、寺で働く男の人二人が、棒を持って駆けつけました。
「ニャー、ニャー・・・」
突然、天井板が外れて、大きな真っ黒な物が落ちて来ました。
「ああっ、ねずみが落ちて来た!!」
お寺で働いている二人の男の人は、なおも暴れる大ねずみを、何度も打ち据えました。
「なんやったんや。何の騒ぎや!?」
近所の人達が駆けつけて来ました。
さすがの大ねずみも、やっと息絶えました。
和尚さんは、急いで梯子を掛けて、天井裏を覗きました。
「お前達どうしたんじゃ。ううっ、臭い・・・。」
かわいそうに二匹の猫は、ねずみの吐く毒気にあてられたのでしょう、下のねずみを睨み付けるようにして、死んでいました。
和尚さんは、二匹の猫を抱いて泣きました。
「和尚さん、こんな猫はめったにおらんぞいね。」
「ああ、立派な猫や。ありがとう。ありがとう。」
和尚さんは、二匹の為にお墓を建てて、毎日お参りしました。
このお墓は、義猫塚(じびょうづか)といって、今も法船寺に残っています。
法船寺ともいき堂はこのような昔話のある由緒あるお寺の境内に設けられているお墓です。
これまでも、これからも金沢の歴史と文化を継承するお寺とご縁を持ってみてはいかがでしょうか。